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大阪地方裁判所 昭和34年(ワ)189号 判決

原告 大阪市

被告 広野左近 外一名

主文

一、被告広野左近は原告に対し、別紙物件目録記載の家屋を明け渡し、かつ、昭和三三年一一月一日から右明渡済まで一ケ月につき金一、一〇〇円の割合による金員を支払え。

二、被告東原傑富は原告に対し、別紙物件目録記載の家屋を明け渡し、かつ、昭和三三年一二月四日から右明渡済まで一ケ月につき金一、一〇〇円の割合による金員を支払え。

三、訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告は、主文と同旨の判決を求め、その請求原因として、

「別紙目録記載の家屋は原告所有の公営住宅であり、原告は被告広野に対しその入居を承認し、家賃一ケ月につき金一、一〇〇円の約でこれを賃貸していたところ、同被告は昭和三三年五月三日大阪市長の承認を得ないでこれを被告東原に転貸し、本件家屋のうち六畳の間は被告東原が専用し、四畳半及び三畳の間は被告両名が共同で使用している。そこで原告は、同年一一月五日被告広野に到達した同月四日付内容証明郵便で、同被告に対し公営住宅法第二二条第一項第四号、第二一条第二項に基き、同年一二月三日限り本件家屋を明け渡すよう請求し、同日限り原告と被告広野間の本件賃貸借は解除された。そこで原告は、被告広野に対しては公営住宅法第二二条第二項に基き、また被告東原に対しては本件家屋の所有権に基き、それぞれ本件家屋の明渡を求め、かつ被告広野が昭和三三年一一月一日以降の家賃金を支払わないので、同被告に対し、右同日から同年一二月三日まで一ケ月につき金一、一〇〇円の割合による家賃金の支払と、被告両名に対し、各自同月四日から右明渡済まで一ケ月につき金一、一〇〇円の割合による家賃金相当の損害金の支払を求める。」と述べ、

被告東原の主張に対し、「管理人辻部は本件家屋の転貸につき承認を与える権限を有しないし、かつ、そのような承認をしたことはない。」と述べた。

被告広野は、郵便送達による呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。

被告東原は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「原告主張の事実中、被告広野が原告所有の本件公営住宅を家賃一ケ月につき金一、一〇〇円の約で賃借していたところ、被告東原が昭和三三年五月三日これを被告広野から転借し、原告主張のとおりこれを使用していること、原告主張の内容証明郵便が同被告に到達したことは認めるが、その余の事実は否認する。被告東原は右転借に際し、本件家屋管理人である辻部が転貸の承認をする権限を有するものと考え、同人の承認を得たのであるが、同人がその権限を有するかどうかわからない。また、昭和三三年五月分から同年一〇月分までの家賃は、毎月、被告広野が金四〇〇円、被告東原が金七〇〇円を負担し、合計一、一〇〇円を被告広野の名義で、被告東原が直接辻部に支払つていた。従つて原告は暗黙のうちに被告東原の転借を承認していたものである。なお、被告東原は同年一一月分以降の家賃金を供託している。」と述べた。

理由

一、原告の被告広野に対する請求についての判断。

被告広野は原告主張の事実を争うものとは認められないから、これをすべて自白したものとみなされる。そうすると同被告は原告に対し、本件家屋を明け渡し、かつ、昭和三三年一一月一日から同年一二月三日まで一ケ月につき金一、一〇〇円の割合による家賃金及び同月四日から右明渡済まで一ケ月につき金一、一〇〇円の割合による家賃金相当の損害金を支払う義務のあることが明らかである。

二、原告の被告東原に対する請求についての判断。

本件家屋が原告所有の公営住宅であり、被告広野が原告からこれを家賃一ケ月につき金一、一〇〇円の約で賃借していたところ、昭和三三年五月三日被告東原にこれを転貸し、本件家屋のうち六畳の間は被告東原が専用し、四畳半及び三畳の間は被告両名が共同で使用していることは当事者間に争いがない。ところで公営住宅法第二一条第二項は、公営住宅の転貸及び入居の権利の譲渡を原則として禁止し、たゞ事業主体の長の承認を得た場合に、例外として一部転貸が許されているにすぎない。そして公営住宅法が入居者資格を法定し、公募により入居者を定めることを根本的なたてまえとしていることを考え合わせると、法は、公営住宅の公益性から、前記のような譲渡及び全部転貸を絶対に禁止する趣旨であり、(公営住宅使用関係は民法上の賃貸借関係ではあるが、賃借権の譲渡及び転貸に関する民法第六一二条第一項の規定は、これに対する特別法たる公営住宅法第二一条第二項によつてその適用が排除されている)、事業主体の長はこれに承認を与えることは許されず、かりに承認が与えられても無効であると解さなければならない。被告東原は本件住宅の全部を使用し、その一部は被告広野と共用しているけれども、その実質は全部転貸にあたるというべきであるから、事業主体の長はこれにつき承認を与えることはできない。そうすると、被告東原の主張する暗黙の承認があつたかどうかにつき判断するまでもなく、被告広野は公営住宅法第二一条第二項に違反して被告東原に転貸したものというべきであり、被告東原は不法にこれを占有するものというべきである。

そうして、原告が昭和三三年一一月五日被告広野に到達した同月四日付内容証明郵便で、同被告に対し公営住宅法第二二条第一項第四号、第二一条第二項に基き、同年一二月三日限り本件家屋を明け渡すよう請求したことは当事者間に争いがないから、同日限り原告と被告広野間の本件家屋賃貸借は解除されたものといわなければならない。被告東原は、昭和三三年一一月分以降の家賃金を供託したと主張するが、同被告が本件家屋の正当な転借人でない以上、右供託が無効であることはいうまでもない。

従つて、被告東原に対し、所有権に基き、本件家屋の明渡と昭和三三年一二月四日から右明渡済まで一ケ月につき金一、一〇〇円の割合による家賃金相当の損害金の支払を求める原告の請求は正当である。

三、以上の理由により、原告の本訴請求はすべて正当であるからこれを認容し、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用の上、主文のとおり判決する。

(裁判官 平峯隆 松田延雄 高橋欣一)

物件目録

大阪市住吉区御崎町二丁目七九番地上

大阪市営御崎住宅第三七六号

木造瓦葺平家建 建坪 一〇坪

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